野島での定期調査とシギ・チドリの動向

1.野島水路のシギ・チドリは絶滅危惧種?
 国道357号線を野島水路上に「建設する計画」は、水路上の干潟に人家もなく、個人との補償交渉も必要のないと言うことで、最も建設しやすい場所です。未確認ですが、この計画道路が一般道と接地するあたりの地質調査も、実施された可能性があります。
 野島水路は、神奈川県探鳥地50選の「平潟湾」の一部になります。「海辺に住む鳥」の探鳥地のイメージで、カモメとカモ中心の探鳥地とされ、シギ・チドリの探鳥地としては、あまり紹介されていません。
 横浜市で、カモメとカモを見ようとすれば、他の場所でも見ることが可能です。しかし、少ないとはいえ、シギ・チドリを80羽以上まとめて見れる場所は横浜市内では、野島水路以外ないと思います。
 野島水路は、それほど貴重な干潟なのです。

 今回、道路用地になっていることを知った時、一番残念だったことが、「シギ・チドリが来ていることが、過去の事になってしまったのではないか?」ということでした。今、野島に来ているシギ・チドリは、「横浜市の絶滅危惧種」なのですが、横浜市はもう絶滅したと思っているのでしょうか。

 横浜市は生物多様性という観点からも、野島水路とその干潟を現状のまま保存し、シギ・チドリの居場所を確保する必要があるのですが。???
・・・

2.調査の結果
 今回、道路問題を知ったとき一番痛感したことは、「記録にない鳥は保護の対象にならない」ということでした。もう一つ、野島にシギ・チドリが来ていることを、沢山の人に、知ってもらう必要がある、と言うことです。
 
個人的に出来ることは何か、ということで、野島に居る野鳥の記録を残すこと、野島に居る野鳥、渡り鳥が「何種類で、どれくらい居るのか」を調査し・記録することでした。
 調査範囲は、野島公園、野島水路を中心とした区域で、調査回数は、渡り鳥の動きを把握するために、2回/月実施することとしました。調査データーの保管は、小生のPCと、野鳥の会神奈川の鳥類目録に入れて頂ました。

 野島では約75種類以上の野鳥を見れる可能性があります。実際に、2009年からの調査で記録した鳥の種類は、68種でした。年で取りまとめた内容が、表の通りです。

調査1回当りの実績(平均)    

  2009年度 2010年度  計算根拠・期間
種数 羽数 種数 羽数
夏鳥 3 25 3 30 4月後半〜10月前半 の平均
冬鳥 7 163 8 93 10月後半〜4月前半の平均 
留鳥 15 153 15 170 通期合計 の平均
合計 25 341 25 293  

・平均値は、留鳥 15種類、渡り鳥 11種類(冬鳥 8種、旅鳥 3種類)です。
1回の調査で記録した最大羽数は、2009年2月2日の557羽(内スズガモ 256羽)です。
 
・留鳥は野島公園を中心にした鳥達、渡り鳥は野島水路と野島海岸を利用する、春・秋のシギ・チドリと冬のカモ達です。
・この数値は、あくまでも平均値です。夏鳥のシギ・チドリは
調査日に必ず居るわけではありません
  ちなみに、日々の観察結果からシギ・チドリの渡りの状況を推測したのが、次の表です。


3.シギ・チドリの動向

  2010年野島水路
 シギ・チドリの渡り動向(2010年 4/16〜10/29)        (単位 羽)

  春の渡り(往路) 秋の渡り(復路)
 渡り開始  最大ピーク  渡り終了  渡り開始  最大ピーク  渡り終了
日付 日付 日付 日付 日付 日付
ハマシギ 4/24 26 5/4 73 5/19 1 - - - - - -
メダイチドリ 4/24 24 4/30 56 5/19 1 7/17 8 8/10 32 8/25 4
キアシシギ 4/26 5 5/18 40 - - 7/3 12 8/2 44 10/20 2
コチドリ 4/24 1 4/24 1 4/24 1 8/7 3 8/7 3 8/7 3
シロチドリ - - - - - - - - - - - -
チュウシャクシギ 4/24 1 4/26 1 4/26 1 - - - - - -
キョウジョシギ 4/24 1 4/26 1 4/26 1 - - - - - -
ソリハシシギ 5/3 1 5/4 2 5/30 1 8/3 1 8/29 4 10/11 1

 デイリーの鳥種類別の羽数変動を観察し、大まかに「渡り開始」「最大ピーク」「渡り終了」時を予想作成したものです。
 渡りの時期は、春の渡りは、4月24日〜5月30日。6月1日〜7月16日まで動き無し。秋の渡りが7月3日〜10月20日(10月26日)で、全て終了となります(鳥の種類によりばらつきあり)。
 ・鳥種により、秋の渡り時、野島を通過しない種(ハマシギ)と羽数が半減する種(メダイチドリ)があります。
 ・秋の渡り時の後半は、若鳥(キアシシギ、メダイチドリ)が増加する傾向があります。

 2010年の調査1回あたりの夏鳥平均値は、3種30羽ですが、春の渡り時の「最大ピーク」単純合計は、7種類174羽となり、種類が2.3倍、羽数で5.8倍となっています。調査とデイリーの比較では、シギ・チドリの種類と総羽数に違いが出ています。
調査より実際の方がはるかに多いのが現実です。

 次に、年毎のシギ・チドリの最大数の推移を見てみます。

野島水路 年別 シギ・チドリ渡り数          (単位 羽) 

  04年 05年 6年 7年 8年 9年 10年  備      考
ハマシギ 40 40 20 20 20 34 73 1.各年で最大数を記録した日の羽数。

          
メダイチドリ 20 30 29 32 24 38 56
キアシシギ 20 15 30 20 15 39 40
コチドリ 1 3 1 3 5 0 3
シロチドリ 0 2 0 10 1 5 0
チュウシャクシギ 1 3 0 1 1 0 1
キョウジョシギ 0 1 0 0 0 22 1
ソリハシシギ 0 2 0 1 1 3 4
トオネン 0 0 0 0 0 0 1
オバシギ 0 0 0 0 0 1 1
82 96 80 87 67 142 180   
・2010年は例年と比べハマシギ、メダイチドリが激増している(原因不明)。
・ソリハシシギが2009,2010年に4羽となり増加傾向。
・シロチドリがばらつきが大きい、2010年は激減。
・ハマシギとメダイチドリは、干潮時にまとまって採食し、満潮前に休憩場所に飛び去ります。
  この休憩場所が分かれば、もっと正確な羽数が把握できます。
・キアシシギは、ばらばらに採食し、満潮前に休憩場所に集合・休憩します。
  04〜08年までは干潮時のカウント数です。09〜10年は干潮時と満潮時の集合場所でカウント。
  キアシシギの干潮時のカウント数と満潮時カウント数の差は、+20羽と予想できます。

 これ等の年次推移から、野島に来ているハマシギ、メダイチドリ、キアシシギの合計は、100〜180羽と予想できます。(あくまでも瞬間カウント数で最小値であり。延べ渡り総数ではありません)

 渡り鳥は、野島で栄養補給をして、次の目的地に移動し、入れ替わります。固体識別が出来ませんので、どれ位入れ替わっているのか分かりません。
 04年ごろの、足環をつけられたハマシギの例では、3日間野島に滞在・栄養補給し、4日目に移動した観察実績があります。



4.最後に訴えたいこと

1.357号線の野島水路通過ルートを変更していただきたい。
 数が少ないとはいえ、毎年野島水路を頼りにして渡ってきてくれる、シギ・チドリ達に、この干潟を残してやりたいと願っています。

2.休憩場所の確保 
 道路建設のルート変更だけでなく、シギ・チドリ達に、満潮時安心して休める場所を確保できないか、と考えています。ハマシギとメダイチドリは野島水路から他の場所に休憩するため移動します。キアシシギは、野島水路の違法の船係留場所で休憩します。三番瀬のように、沢山のハマシギが海岸で固まって休んでいる場所が確保できないかと思っています。

           キアシシギの休憩風景。
          
キアシシギが休んでいる、この仮設船係留施設(私設の違法施設)に代わる休憩場所が出来ないかと、思っています。40羽弱のキアシシギが休んでいます。


参考(調査結果元データ)
上記の表の元となった調査資料です。ご参考まで。

2009・2010年度調査結果一覧表  →    tyousa2009-10.pdf へのリンク

2010年シギ・チドリの動向。  →        2010watari.pdf へのリンク

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